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ノーベル物理学賞が発表されました!今年はDavid Wineland氏とSerge Haroche氏、量子の状態を壊さずにコントロール/観測を実現されたことによるものです。科学技術の新たなブレイクスルーと期待されている量子コンピューターの実現への大きな一歩です。

量子コンピューターとは、物質のごく小さな単位である量子の性質を利用して、とても速い計算や従来のコンピューターでは不可能な情報の伝達などを可能にするコンピューターです。しかし量子は非常に扱いづらいため、実現にはいろいろな障害があります。

量子はとても魅力的で不思議な性質をもっていますが、外界の環境(温度など)や他の粒子に影響を受けやすく、なかなか思い通りにゆきません。観測しようとして光をあてたりするだけで、量子の状態は変わってしまったりします。両氏の功績は、そんな量子を孤立させ、量子状態を保ったままコントロールしたり観測したりできるような装置を開発したことです。

そもそも量子って?

量子はよく物質の最小単位と言われますが、素粒子である必要はありません。中性子陽子電子素粒子などのサイズになると、全ての粒子が量子のふるまいをすることになります。原子核や原子、イオン(電荷をもった原子)、小さな分子でも量子的性質を示しますし、光子そうです。

「量子の性質は人間の理解を超える」とか「量子を理解している人は1人として存在しない」などと聞かれたことがあるかもしれません。それで、「無理なんだ、まだ理解できてないんだ」と考えてしまいます。でもそれは違うのです。

量子は確かに不思議な性質があります。けれどその性質を受け入れてきちんと計算すると、量子は想定通りのふるまいをします。量子力学という分野は、いくども実験に検証された確立した分野なのです(ミクロの世界を超えると限界がありますがそれはさておき)。

その不思議な性質とは、量子は測定されるまで「もやもや」とした存在、ということ。そのもやもやの状態は、確率で正確に表されます。

つまり、たとえば量子の位置を測定すると、ここに現れる確率がこれこれで、あそこに現れる確率がこれこれということを計算することができます。この確率は、波のような形で分布しているので、「量子は粒であり波である」ともいわれます。量子は測定されるまで、この波の性質を持ちます。

いや、量子はもともとある一カ所に存在していて、人間にとっては測定して初めて位置が明らかになるだけでないの?とお思いになるかもしれません。でも違うのです。量子の位置が確定するまでは、量子は波のようにふるまいます。そして確定すると、その瞬間に波はつぶれるのです。

どうしてこう考えざるをえなかったか、ということをご説明しましょう。

ある板に細いスリットを二つあけます。

ここに波、たとえば水面上の波紋を送ると、板のスリットを通り抜けた波は弱め合ったり強め合ったりして干渉します。けれど粒は干渉しません。つまり、板の反対側でどのような分布を見せるかをみれば、粒か波かがわかるのです。

この実験を量子で行います。すると、なんと量子はスリットを波のように抜けて、スクリーンに波の干渉縞をつくります

なぜこれが不思議なのかというと、この実験は、量子を一個ずつ送って行うからです。たくさんの量子が干渉しあっているのではないのです。量子1つがスリットを通り抜け、向こう側でスクリーンに受けて観測されると、量子はスクリーン上のある一点に出現します。つまり、粒として観測されます。これだけでは波の分布か粒の分布かはわかりません。ある程度の時間をおいて、また一つまた一つと量子を送って、スクリーン上の分布を見ます。すると、干渉縞があらわれるのです。量子1つが自分自身と干渉しているとしか説明がつきません。

量子は観測されるまでは波であり、観測されると値(例えばどこにいるか)が確定するのです。これはわたしたちの日常的な感覚ではなかなか理解できません。けれど、これを受け入れて、

量子の状態は常に波の確率分布で、位置やエネルギーといった量は意味をなさない。ある量を測定して確定すると、波がつぶれて確定された状態に落ち着く(このとき他の量が不確定になります)」

として、数学で表現します。すると、量子はきちんと計算通りにふるまいます。

量子コンピューターが期待されるわけ

上記が量子の性質の説明ですが、量子の本来の意味は、観測できる量子量の値がとびとび、ということ。

たとえばエネルギー。私たちの身の回りでは、エネルギーはいろんな値がとれます。キッチンの火力をつまみで調整できるようなもの。それに対し、量子のようなとても小さな世界では、量子間で受け渡しできるエネルギーの量や、原子核の周りを回っている電子のエネルギーは、あるとびとびの値のどれかしかとれず、その値の中間には存在しない、という現象がおこりえます。

こういった性質を利用して、とてつもなくパワフルなコンピューターをつくることができます。これを量子コンピューターといいます。まだ実用化にはほど遠いものですが、この考えを支える実験結果がさまざまに出てきています。

今回のノーベル賞は、そんなブレークスルーを起こした両氏に授与されました。

まずは、直感で理解しづらい量子を、簡単な数学で表してみましょう。

量子力学の数学は、意外にシンプルです。ここでは、量子コンピューターの説明のために、量子の状態を、01でという2つの状態を想定します。これは、従来のコンピューターのビットも0と1をとるからです。(量子の場合、状態が2つである必要はありません)

ここで、01は、量子のとびとびの量をあらわす状態と考えてください。この量は、たとえば水素原子核の周りを回っている電子1個のエネルギーであったり、粒子のもつスピン(小さな磁石のような値で、上下の二つの値をとれます)や、光であれば偏光など、さまざまな測定できる「量子量」を指すことができます。

abは、係数です。この係数の値がわかっていると、量子の状態がわかっているということになります。(観測したときに、0である確立がaの二乗、1である確立はbの二乗。aの二乗とbの二乗の和は1である必要があります。)

この式の現す意味は、1つの量子が2つの状態を同時にとっている、ということです。従来のコンピューターでは、1ビットは0か1かどちらかしかとれません。しかし、量子は1ビットで2つの状態を合わせもっているのです。波が重ね合って干渉するように、状態が重なって存在しているのです。これが、量子は量の値が確定しない、という意味です。

この量子のビットを「量子ビット」と呼びます。

つまり、それだけ多くの情報を一度に表すことができると考えることができます。これは、1つの量子ビットだけではその威力を見ることはできません。しかし、2量子ビットでは4つの状態を、3量子ビットでは8つの状態を、という具合にビット数とともに量子のもつ状態が莫大な数に増えていきます。

これがたとえば500量子ビットあったとしましょう(たとえば水素原子500個)。すると2の500乗個の状態を一度にもっていることになるのです。これは、宇宙に存在する粒子の数と宇宙の年齢をフェムト秒(0.000000000000001秒)で数えた数とを掛け合わせた数よりも大きい数になります。従来のコンピューターでは何億年もかかる計算が一瞬でできるようになるかもしれません。

これが、量子コンピューターが期待される理由です。(しかし、量子の性質上、従来のコンピューターのできることが全てできるわけではありません。)

ところが量子はたいへん扱いにくく、他の量子にすぐに影響されたり、温度に影響を受けたりと、なかなか実験も難しいのです。けれど従来のコンピューターのチップがどんどん小さくなれば、いずれ量子サイズで頭打ちしてしまうことは明らか。そういう意味でも、量子の理解はとても大切なんですね。

さて、従来のコンピューターで個のビットがあると、それぞれのビットは0と1をとれるので2をm回足した数、(2×m)のパラメータ(次元)を持っていることになります。これが量子ビットだと2をm回かけた数、(2m)になるのです。

この違いはどこからくるのでしょうか?実は、それが「量子のもつれ」とよばれるものなのです。

量子は互いにもつれている

上記の(2×m)(2m)との差分は、2つ以上の量子がもつれた状態があることからきています。もつれている、とはどういう状態かというと、からまりあって量子を別々に割くことができない状態です。数学的には、

のように、括弧に因数分解できない状態をいいます。たとえばこれ↓

ベル氏が見つけたので「ベル状態」と呼ばれ、いわば最大限にもつれた状態です。

量子コンピューターを実現するためには

従来のコンピューターはの回路は、AND(2ビットとも1なら1、それ以外は0)やOR(2ビットとも0なら0、それ以外は1)などのゲートの組み合わせでできています。量子コンピューターも、これに対応するような量子ゲートで構成されます。

ということは、量子に思い通りの操作をさせる必要があります。たとえば、0はそのままで1の符号を反対にする(+→ー)、Zとよばれる操作

があります。アウトプットは量子状態をもったまま、しかしその状態をうまいぐあいに変えてあげなくてはいけません。

しかし、量子状態を保ったまま操作するのは非常に難しいのです。なぜなら、量子は他の粒子に近づきすぎるといっきに量子状態が壊れてしまいますし、かといって遠ければ影響を与えることはできません。

それを実現したのが、今回のノーベル賞受賞者のお二方です。

Wineland氏は、イオンの量子を孤立させるために電場をつかい、イオンが動かないようにレーザーで精密にコントロールしました。さらにレーザーを断続的なパルス状にしてそれを制御することにより、イオンの量子状態、つまり0と1の重ね合わせの状態を壊すことなくみたり制御したりすることを可能にしました。

Wineland氏は、CNOTという量子ゲートを初めて実証した人でもあります。CNOTは、アウトプットの1つ目は、インプットの1つ目に同じ。アウトプットの2つ目は、インプットの1つ目が1である場合だけ、インプットの2つ目の量子をひっくり返します(0→1, 1→0)。インプットの1つ目が0の場合はそのまま。

量子コンピューターではとても重要な操作です。

対し、Haroche氏は、光を二枚の鏡の間で何度も反射を繰り返していったりきたりさせることで、一カ所に閉じ込めて、光子の量子状態をみました。Wineland氏が原子を見るために光を使ったのに対して、Haroche氏は、光を見るために原子を使いました。光子を閉じ込めている鏡の中に原子を送りこみますが、普通の原子では光子にぶつかって量子状態を壊してしまいます。

そこでHaroche氏は、リュードベリ原子という、電気的性質が非常にかたよっていて外の電場に影響を受けやすい巨大原子(普通の原子の1000倍のサイズ)を使いました。この原子を光の中に送ってもつれさせると、光子の量子状態の波の位相だけが変えることができ、量子状態を壊すことなく数えたり制御したりすることができるのです。

量子は外界の環境にとても影響されやすく、すぐに壊れてしまう性質があります。しかし量子コンピューターを実現するためには、計算結果を測定したり制御したりする必要があるのです。そこで、測定や制御に大変な精密さや工夫が求められるのですね。

両氏のおかげで高速計算や量子テレポーテーションといった、実現不可能と思われていたものが一歩実現に近づきました。ここでは量子コンピューターについてばかり書いてしまいましたが、両氏の実験の意義はそれにとどまりません。数学でしかなかなかうまくとらえられない不思議な量子の性質を、実験で検証したのです。

なかなかとらえどころのない量子の世界ですが、日常的に使う日はそう遠くないかもれませんね。今後の展開が楽しみです。

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